シンポジウム

シンポジウム《メタ複製技術と音楽文化の変容》 百周年記念館会3階小講堂
パネリスト: 遠藤薫(学習院大学)
             kz(livetune)
       Naohiro Yako(Bunkai-Kei records)
司   会: 谷口文和(京都精華大学)

★シンポジウムのみ参加の場合の大会参加費は1,000円(当日のみ:受入数に制限がございます)

 ICTの普及にともない、コンテンツの制作のみならず、媒介(流通)、聴取、消費というプロセスにおける技術のプラットフォームがデジタルに統一された。その結果、CDの売上の下落という現象に顕著に現れているように、近代以降、音楽産業を基盤として発展した音楽文化は大きな変化を余儀なくされているといってもいいだろう。というのは、これまで音楽産業は、大量複製技術とそのコピーを媒介するネットワークを独占し消費者に対して圧倒的な優位性をたもつことで、商業的基盤を作り出していたからである。
 遠藤薫は、今日の生命的複製技術をデジタル技術とネットワーク技術とが融合したものとしてとらえ、それを「メタ複製技術」と呼んでいる。「メタ複製技術」により、音楽産業に独占されていた技術やネットワークが、いまだに音楽産業の優位性は否定できないものの、多くの人びとにその利用が開かれたことを意味している。
 その結果、今日では従来とは異なる音楽文化の様相を産み出してきた。その一点目が音楽産業から相対的に自律した音楽文化の形成である。オタク的下位文化の注目とともに知られることとなった、いわゆる「同人音楽」は、同人と呼ばれる制作者集団が、コンテンツを制作し、コミュ家などのイベントや同人ショップなどを中心とした、従来のメディアの流通とは異なる市場を形成している。また、販売目的で楽曲を制作してきた従来のレーベルとはまったく異なり、オンライン上での無料の楽曲配布を基本としているネットレーベルは、リアルなクラブでのイベントとシンクロしながら、展開している。
 二点目は音楽を媒介するチャンネルの多様化である。特にYoutubeやニコニコ動画に代表されるCGMは、自分の作品をアップロードし公開することを通じて、従来とは比較にならないほど多くの人が多様な作品に触れる機会を生み出した。さらに、CGMはその作品の魅力およびアーティストの力量を、再生回数という基準によって、示す場として幅広い影響力を持つようになった。Kz氏に代表される「ボカロP」(ボーカロイドを使った楽曲の制作者)のように、メジャー・レーベルからデビューすることも珍しいことではなくなった。またBandCampやSoundCloudといった音声ファイル共有サービスは、itunesなどの異なるサービスとリンクが張られることによって、同じ楽曲であっても多様な利用・消費形態が可能となった。
 三点目は多様な制作者のネットワークの形成である。それはYako氏が指摘しているとおり、「作品のソーシャルメディア化」が進展している、ということもできるだろう。同人音楽、ボーカロイド、ネットレーベルはいずれも、デジタルという共通の技術的プラットフォームが存在するため、異なるコンテンツを制作する制作者がネットワークを形成し、ある制作者の音楽作品に別の制作者が映像を付けるといったコラボレーションが頻繁に行われるようになっている。また同じ楽曲に異なる映像制作者が自作の映像を付けることで、作品が多様化している傾向も観察される。
 このシンポジウムでは、メタ複製技術時代の音楽文化の現在地点について認識を深めるとともに、これからの音楽文化がどう変わっていくのか、そしてまた変わらないのかを、フロアのみなさんと検討していくことを目的としている。
 今回のシンポジウムでは、ゲストとしてまさに今日のメタ複製技術時代の音楽を語る上で、重要なアーティスト2名をお招きした。両ゲストのお話しを通じて、メタ複製技術時代の音楽文化の現状を概観していく。まずは、「ボカロP」を代表するアーティストであるkz氏である。kz氏には、これまでの活動経歴をお話し頂く。お二人目は、ネットレーベルであるBunkai-Kei recordsを主催するNaohiro Yako氏である。Yako氏には、ネットレーベルの開設からこれまでのご活動の経緯を踏まえ、作品のソーシャルメディア化についてお話し頂く。Jaspmからは遠藤薫氏にはメタ複製技術からみた今日の音楽文化の共同性とその創造性についてお話し頂く。そして司会には長年音楽文化におけるデジタル化の問題について論じてこられた谷口文和氏にお願いした。
 本シンポジウムにおける議論を通じて、今後のポピュラー音楽研究の新しい一歩を踏み出していく契機となること、シンポジウムコーディネーターとしては願ってやまない。
      
文責 JASPM26シンポジウムコーディネーター 大山昌彦 

登壇者(仮)
遠藤薫(えんどう かおる)
 1952年生まれ。東京工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。現在、学習院大学法学部教授。著書に、『聖なる消費とグローバリゼーション』『メタ複製技術時代の文化と政治』(勁草書房)、『グローバリゼーションと都市変容』(編著・世界思想社)、『大震災後の社会学』(編著・講談社現代新書)、『廃墟で歌う天使−−ベンヤミン『複製技術時代の芸術作品』を読み直す』(現代書館)ほか。

kz(けーぜっと)
VOCALOIDを利用した楽曲動画投稿者、「ボカロP」の代表的なアーティスト。2007年より投稿を始め、2008年8月にアルバム「Re:package」でデビュー。その後、さまざまなジャンルのアーティストの楽曲の作詞、作曲、リミックスなどを手がける。また、2012年にはGoogle chromeとのタイアップで書き下ろしの新曲「Tell your world」を公開。初音ミクの名を世界的に知らしめ、世界各国からの要望により217ヶ国での配信が決定。この数字は邦楽歌手史上最多を記録した。

Yako(やこー)
 2010年よりトラックメーカーのGo-qualiaと共にオンラインレーベル"Bunkai-Kei records"を主宰。分解系でのリリース等のプロデュースをするほか、「OUT OF DOTS」や「Re-Union」といったイベントのオーガナイズやDJとして活動。また個人としてVJや、2002年よりメディアデザイン集団flapper3の設立メンバーとしても活動している。

司会
谷口文和(たにぐち ふみかず)
1977年生まれ。東京芸術大学大学院音楽研究科博士後期課程単位取得退学。録音技術を基盤とした音楽を、表現の形式や産業構造、受容のあり方といった側面から研究している。著書に『音楽未来形――デジタル時代の音楽文化のゆくえ』(増田聡との共著、洋泉社、2005年)、『メディア技術史――デジタル社会の系譜と行方』(分担執筆、飯田豊編著、北樹出版、2013年)など。


  • 最終更新:2014-12-04 23:57:46

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード